不妊治療の実際
不妊治療とは、その原因究明の検査から始めます。
帝京大学医学部産婦人科 主任教授
綾部 琢哉 先生 プロフィール
東京大学医学部医学科 卒業
日本産科婦人科学会専門医
日本生殖医学会生殖医療指導医
日本内分泌学会内分泌代謝科専門医/指導医
不妊治療を試みる人へ
女性の晩婚化や高齢出産の増加に伴い、現在全国で約100万カップル、6〜7組に1組の夫婦が不妊で悩んでいると言われ、年々増加しています。女性は年齢が上がるにつれて卵子が劣化するという事実もあります。卵子の質が低下している場合、妊娠可能な卵子が排卵してくる確率は低下します。何回か同じ方法を試みても妊娠しなかった場合、他に不妊原因があるのか、あるいは、単に良好卵子が排卵されていないだけなのか区別がつきません。ある程度年齢が高くなってからの不妊原因を特定するのが難しいのはこのためです。妊娠までに時間がかかってしまった場合など、不妊原因の結論が得られないまま、原因不明の不妊として、体外受精に進むことも多くあるのが現状です。
不妊の原因は、男性側の場合が約30%、女性の卵管障害が約30%、そして排卵障害となっています。
卵管障害とは卵管の詰まりや卵管周囲の癒着です。卵管は卵子と精子の通り道ですので、卵管が詰まったり、癒着してしまうと排卵された卵子がうまく受精の場となる卵管までたどり着けず、あるいは受精卵が子宮までたどり着けず、自然妊娠の機会は失われてしまいます。このような卵管障害の治療では、体外受精が多く試みられています。しかし、1996年頃から、患者さんの負担が軽い内視鏡を用いた「卵管鏡下卵管形成術(FT)」という、卵管の詰まりを治療する方法も普及しつつあり、より自然な妊娠も可能となっています。
一般的に医療は、治療のリスクと治療により得られるベネフィットとのバランスにより成り立っており、結果は全て自分に返ってきます。一方、不妊治療で得られるベネフィットは、自分の命や生活の質の向上というかたちではなく、新しい生命・子供の誕生というかたちで返ってきます。この点が、一般的な医療との大きな違いです。また、不妊治療においては、なんらかの侵襲的行為を受ける場合があるということも念頭におく必要があります。これらリスクとベネフィットを考慮した上で、不妊治療を受けるかどうかの選択が必要です。治療を行う際は、我々も十分な説明をし、不妊治療に一緒に取り組んでいきます。