妊娠中の運動について
かかりつけの産婦人科医に相談してから、ゆっくりはじめてみましょう。
筑波大学名誉教授
目崎 登先生 プロフィール

1944年 東京生まれ
奈良県立医科大学卒業後、東京大学医学部産科婦人科学教室助手、筑波大学 産科婦人科助教授を経て、1997年より筑波大学 スポーツ医学教授、2004年より筑波大学大学院 人間総合科学研究科教授を歴任し、2008年 筑波大学名誉教授となる。現在、日本体育協会スポーツドクターとして、国立スポーツ科学センターにて、我が国のトップアスリートの診療に従事する。
はじめに
以前は、流早産を防ぐために、妊娠中はできる限り安静にすべきとの考えが主流で、妊婦さんが運動をするなど考えられないことでした。しかし、現在は妊娠経過に異常が認められなければ、適度な運動が推奨されるようになっています。
妊婦さんにおいても、定期的な運動は健康管理の面での効用が非常に大きいことがわかっています。しかし、運動が過度になり、母体と胎児に異常を招くことがあれば本末転倒です。
日本臨床スポーツ医学会学術委員会婦人科部会(部会長:目崎 登)では、妊婦さんの運動が母児に及ぼす効果や問題点などに関する内外の多くの文献を調査し、平成15年に「妊婦スポーツの安全管理基準」を策定、妊婦スポーツの普及を推進してきました。
ここでは、この安全管理基準に基づき、妊婦さんに勧められるスポーツの種類や方法、注意点などをまとめたものです。安全に、そして効果的に運動を行うために、ご活用いただければ幸いです。
妊婦さんが運動を行うことには意義がある
肥満予防、体力維持などの他に、不定愁訴の解消など、運動は妊娠・分娩に良い影響をもたらすことが認められています。
慢性的な運動不足による肥満やメタボリックシンドロームの増加が社会問題になっていますが、妊婦さんもその例外ではありません。妊婦さんの運動の主な目的として、①肥満予防、②体力・持久力向上、③気分転換・ストレス発散などが挙げられます。また、頭重感や肩こりといった妊娠中の不定愁訴の軽減なども運動の大切な効能といえます。
産褥期における運動の効果も見逃せません。そのひとつが疲労からの回復力の向上です。分娩は多かれ少なかれ心身にさまざまなダメージをもたらしますが、運動を継続して行うことで、そのダメージが軽減されることがわかっています。その他、母乳分泌の刺激、骨密度の増加、精神状態への好影響(マタニティブルースの予防)なども期待できます。