不妊治療の種類と流れとは?

目次

不妊治療を早く始めたほうがいいのはなぜ?

女性の卵巣内にある卵子は新しく作られることはなく、生まれた時から徐々に数が減っていき、質そのものも低下していきます。個人差はあるものの、30歳を超えると自然に妊娠する力は少しずつ低くなり、30歳代後半になると急激に低下します。

不妊治療を行った場合でも、30歳代後半から妊娠する確率は低下し、流産する確率は増加します【図1】。つまり、「年齢が高くなると妊娠しにくくなるから不妊治療をする」のではなく、「年齢が高くなると不妊治療をしても妊娠しにくい」ということです。同様に、男性も女性ほどではありませんが、年齢が高くなるとともに精子の質や精巣機能が徐々に低下します。このため、妊娠を望むカップルは、できるだけ若い時期に不妊治療を始めることが望まれます。

【図1】 生殖補助医療技術(ART)※1を行った場合の成績

日本産科婦人科学会学会 登録・調査小委員会 2021年ARTデータブックより引用

※1:ART (Assisted Reproductive Technology:生殖補助医療)とは、体内での受精が困難になった患者さんに対して、配偶子である卵子や精子を体外に取り出し、体外で受精させる技術のことです。
※2:ET(Embryo Transfer:胚移植):子宮の中に受精卵(胚)を戻すことです。

特に、女性側に生理不順があったり、無月経の期間が長かったりして、きちんと排卵ができていない場合、あるいは子宮内膜症や子宮筋腫によって生理痛が強い場合は、不妊症の可能性が高くなります。また、男性側にも精子を作る能力に問題がある、生み出された精子が陰茎の先まで運ばれない、性交がうまくできないといった要因がある場合などには、不妊症の可能性が高まります。

したがって、妊娠を希望するのであれば、現在行っている妊娠の試みが正しいかどうか、また、妊娠する確率を高める方法はないかどうかを医療機関で確認してもらうとともに、必要に応じてカップルで不妊症の検査を進めていくのがよいと思われます。ためらわずに受診してください。

不妊症治療の流れとは?

不妊症が疑われる場合は、まずその原因を調べるためにいくつかのスクリーニング検査を行います。そこで疑いのある要因については、さらに詳しい二次検査が行われます【図2】。

【図2】 不妊検査の流れ

女性側のスクリーニング検査は、生理周期にあわせて進められます【図3】。また、検査のなかには、女性のからだの負担になるものも含まれます。一方、男性側のスクリーニング検査は、精液を採取し、その濃度や精子の運動能力などを調べる精液検査から始めます。からだの周期にあわせた検査ではないので、女性側のスクリーニング検査とは別のタイミングで行うことができます。

検査の結果、不妊の原因が分かった場合は原因に対する治療をしますが、原因の治療が難しい場合はその原因を医療で補う治療が行われることも多いです。また、検査をしても原因が分からないことも少なくありません。たとえ原因がはっきりしない場合でも、原因不明不妊症としてご夫婦の希望により治療が行われます。

通常の不妊治療の流れとしては、「タイミング法」から開始し、「人工授精」、「体外受精」へとステップアップしていくのが一般的です。

【図3】 生理周期を考慮したスクリーニング検査の実施時期

女性側のスクリーニング検査とは?

女性側の検査は、ほとんどの人が受ける一般的な検査と、一般的な検査で病気が疑われる場合などに受ける特殊な検査があります。

一般的な検査

経腟超音波検査

超音波プローブと呼ばれる細い検査機器を腟から挿入して不妊の原因となる子宮筋腫・卵巣のう腫・子宮内膜症などの病気がないかを確認します。

血液検査

血液を採取して、卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン・黄体化ホルモン、プロラクチンや甲状腺ホルモンの濃度を調べます。

フーナーテスト(性交後試験)

排卵直前の最も妊娠しやすい日に性交を行い、翌日、女性の子宮頸管粘液を採取し、その中に運動性を保った精子があるかどうかを調べるテストです。もしも頸管粘液の中に運動精子がひとつもなければ異常と判断し、その他の原因がないかを調べます。

卵管疎通性検査(子宮卵管造影検査等)

X線を当てて確認しながら造影剤を子宮口から子宮内へと注入し、子宮の形に異常がないかどうかを確認したり、卵管が閉じていたり、狭くなっていたりしていないかなどを調べます。

特殊な検査

腹腔鏡検査・子宮鏡検査

腹腔鏡検査は、へその下を少し切り、そこから腹腔鏡と呼ばれる細い望遠鏡のような医療機器を入れて腹腔内(ふくくうない)を観察する検査です。腹腔内、骨盤内の妊娠にかかわる卵巣、卵管、子宮などを直接観察できるため、X線を使った子宮卵管造影検査で分かりづらかった病変を発見することもできます。
子宮鏡検査は卵子が着床する場所を直接観察する検査で、麻酔をかけずに行うことが多いため、外来で行うこともできます。この検査では、ポリープや筋腫などの腫瘍性病変の有無、内腔の組織同士がくっついていないかどうかなどの確認をすることができます。

MRI検査

磁場を用いてCT検査のようにからだの断面像が撮影できる検査で、子宮や卵巣の詳細な形が分かります。そのため、子宮筋腫や子宮内膜症など、不妊の原因となる病気が強く疑われる場合に行います。

不妊症の治療はどのように行われるの?

不妊治療には段階的に「タイミング法」「人工授精」「体外受精」「顕微授精」などがあり、不妊の原因、からだへの負担、経済的負担、成功率などさまざまな角度から総合的に考えて選択されます。基本的には身体的・時間的にも負担の少ない方法から始め、それで一定期間治療しても妊娠しない場合は、順を追ってステップアップしていきます【図4】。

【図4】 不妊治療の基本的な流れ

【第1段階】 一般不妊治療

≪タイミング法≫
超音波検査と血液・尿検査などを併用して正確に予測された排卵日に性交のタイミングをあわせる方法です。

≪人工授精(AIH:artificial insemination with husband's semen)≫
採取した精液中から動きのよい精子を取り出して濃縮し、妊娠しやすいタイミングで子宮内に直接注入する方法です。

【第2段階】生殖補助医療(ART:assisted reproductive technology)

生殖補助医療とは、体外受精・顕微授精・胚移植・凍結胚融解移植などの専門的な医療技術の総称です。排卵誘発薬(内服薬、注射)で卵巣を刺激して卵子を成熟させ、卵巣から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させて数日後に受精卵を子宮に戻す(胚移植)方法で、受精方法には「体外受精」と「顕微授精」の2つがあります。

≪体外受精(IVF:in vitro fertilization)≫
卵子と精子を同じ培養液の中で培養して受精させ、得られた受精卵を子宮に戻す方法です。

≪顕微授精≫
動きがよく、形の正常な1個の精子を顕微鏡で見ながら卵子の中に細い針で注入する方法です。精子数がとても少ない場合や受精障害がある場合など、体外受精では受精が難しい場合に選択されます。卵細胞質内精子注入法(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)が一般的です。

※生理は、正しくは「月経」といいます。ここでは、皆さんになじみのある「生理」をつかっています。

参考文献

  1. 病気がみえる Vol.9 婦人科・乳腺外科 第4版 医療情報科学研究所 編集 株式会社メディックメディア(審査用;p232、242、248~250、253、254)
  2. 日本生殖医学会 一般のみなさまへ 生殖医療Q&A(旧不妊症Q&A) Q2.不妊症とはどういうものですか?
    http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa02.html (2023年12月閲覧)
  3. 患者さんからの質問に自信を持って答える不妊治療Q&A 片桐由起子 編著 日本医事新報社
  4. 片桐由起子、福田雄介、森田峰人 第3章 生殖内分泌分野 女性不妊症 産科と婦人科 82 :335 -341 , 2015
  5. 日本産科婦人科学会 産科・婦人科の病気 不妊症
    https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15 (2023年12月閲覧)
  6. 先端医療.net 医学・医療最前線 不妊治療の流れと種類 (片桐先生の記事)
    https://www.senshiniryo.net/column_a/34/index.html (2023年12月閲覧)

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東邦大学医学部 産科婦人科学講座
東邦大学医療センター大森病院 産婦人科 教授
片桐 由起子 先生

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